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■ 第15話  皆既日食を見た!

皆既日食(かいきにっしょく)というのは太陽と地球の間に月がすっぽりと入り込むことにより、地上から見ると太陽が月で完全に隠され、昼なのに夜のように暗くなる現象です。

日本国内にばかりいる限りでは数十年に一度くらいしかチャンスが無いし、当日曇っていれば見られないため、まさに一生に一度あるかないかの一大天体ショーとなります。

私がインド滞在中に、幸運にもチャンスが巡ってきました。
しかも、この時期インドは乾季の真っ最中! 毎日晴天の連続です。

では、皆既日食見物の顛末を・・・

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1980年2月15日の昼頃、私は南インド内陸部のホーシュペットという田舎町の鉄道駅にいた。

皆既日食が見られるというマブーブナガール方面への列車を待っていたのだ。

実ははじめ、午後1時に出るというバスに乗るために、バスターミナルにいたのだが、待てど暮らせど当のバスが来ないので、あきらめて鉄道駅の方にやってきたのだ。

駅で列車を待つために座っていると、数人のインド人達が私の前に立って、ジーッとこちらを見つめている。

タミール語で何か聞かれたようだ。でも意味がわからない。

こっちが英語で話しても理解されないようだ。彼らは英語が話せないらしい。

・・・で、再びジーッと見つめられる。

日本の場合は、目と目が合えば視線をそらすのが普通だが、ここインドではそんなことはない!

彼らは視線をそらさないのだ。

見詰め合ったまま・・・ただ時間だけが経過してゆく。


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そのうちに徐々に見物人が増えてきた。

いつの間にか、私は大勢のインド人達に取り囲まれて、ジーッと見つめられる羽目になった。

知らない世界の風物を見てやろうと旅に出たはずなのに、逆に私の方が「見られる」対象になっているではないか!!

見物人の中から一人が進み出て私に英語で話しかけてきた。

「どこから来た?」

「日本からだ」

すると彼は、周囲の人たちに説明しはじめたようだ。

言葉はわからないが、しきりに「Japan」という言葉が聞こえてくる。

次にまた彼が聞く。「どこへ行く?」

「マブーブナガールだ。皆既日食を見に行く。」



私が何者であるか分かったからといって、見物人が去ってくれる訳ではない。

去ってゆく人はいるが、また新たな見物人が加わる。途切れない!

結局、列車を待つ3時間ほどの間、私の前には常に数人の見物人が立ちはだかっていた。

入れ替わり立ち代り、いくらか英語を話せる「代表者」格の人間が尋ねてくる。

「どこから来た?」「どこへ行く?」

「どこから来た?」「どこへ行く?」

「どこから来た?」「どこへ行く?」・・・・



インドの大都市や観光地に日本人は珍しくないが、この町は大都市でもなければ観光地でもない。

たまたま、皆既日食があるというので通りがかった、何の変哲もない田舎町だ。

日本人をはじめて見る人も多いだろう。だからこの有様だ。



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見つめられ続けること3時間! 動物園のオリの中のパンダのような状況からやっと開放され、夜行列車に乗ってマブーブナガールへ・・・

2月16日早朝、マブーブナガール駅に着いた。


駅員の話によると、日食が一番良く見えるファーレムというところに人がたくさん集まっているという。

駅のブッキングオフィスに荷物を預けて隣町へ行き、そこでバスを待っていたらインド人の学生(スィートラマという名の26歳の学生だそうだが、随分老けて見えた。)が話しかけてきた。

彼といっしょにファーレムまで行くことにする。

スィートラマはとても話好きで、私にいろいろ案内するのが楽しそうだった。

あちこち歩き回ったあげく、彼の妹の家というところで休ませてもらった。

家の中には老人から若者まで5人の女と一人の男がいて、しきりにJapanという言葉をはさんでお互いに話しあっている。

たちまち私は、彼女達の話題の中心になったようだ。

家にはたくさんのステンレスの壺が置いてあり、ケロシンランプでチャイ(インドの甘い紅茶)を沸かしてごちそうしてもらった。

そうしているうちに、ここの女の子の一人が、近所の友達を連れて私の見物にやってきた。

スィートラマの妹の家を出て道を歩いていたら、子供の集団がやってきて私に紙キレを差し出し何か言うので、それに私の名前を漢字でサインしてやったら、喜んでワーッと団子状になって駆け出していった。

そう・・・今、この町では私はスターなのだ。



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ファーレムに到着。

日食は午後2時過ぎである。

スィートラマに連れられてヒンズー教の寺院へ行き、聖水をもらったり額に赤い粉をつけてもらったりして時間を過ごした。


ファーレムには大学があり、その屋上に人が集まっていた。外国人も大勢いた。

しかし多くのインド人たちは、日食を見ると目がつぶれると信じているようで、特に女性や子供は家に引きこもって外に出てこない。

実際、その日のインドの新聞には、コロナの写真とともに「Don’t Look It!」と大きな見出しがついていた。「見てはイカン!」と報道されているのだ。


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我々も大学の屋上に上がりこみ、快晴の空の下、準備万端で「その時」を待っていた。

スィートラマの兄貴から黒いプラスチックの板キレをもらって太陽を見ていたら、午後2時34分、太陽が欠け始めた。

プラスチックの板キレ越しに見る太陽は徐々に欠け続け、午後3時半頃、つまり皆既日食まであと10分ほどという段階になった頃、あたりは急に暗くなり、空に金星が現れた!

人々は天を指差し、「スター!」とか「ビーナス!」といってさわいでいる。



黒い板を通して欠けた太陽を見ていたら、それがだんだん小さくなって、パッと消えた次の瞬間、板をはずして見たら黒い太陽がそこにあった。

神秘のコロナが天に輝いている!

生まれてはじめて見る黒い太陽、それを取り囲む美しいコロナの輝き。

なんとも不気味で、なんとも美しい光景だ。



あたりはかなり暗く、地平線は周囲全体が赤く焼けている。

夕焼けは普通西の空に出るものだが、今この瞬間は、東西南北360度全体が夕焼け状態だ。
しかも、夕方よりは夜に近い。思っていたよりかなり暗いのだ。



かつて、日食の原理を知らなかった古代の人たちが、日食を見てこの世の終わりだと思った気持ちがよーく分かる。

昼間の闇に興奮した鳥の群れが、目の前をバーッと飛び去っていく。

あちこちで鳥が鳴いている。



見回すと、人々は興奮の表情をしている。そういう私も興奮していた。


約5分ほど皆既状態が続き、次の瞬間、黒い太陽の下の部分にダイヤモンドリングが現れた。
光輝く天の指輪・・・一生のうちにわずか数秒しか見られない貴重な瞬間!

と、見る間に輝きは大きくなり、10秒くらいの間に黒い太陽は消えさった。


もう眩しくて直接太陽を見ることはできない。

・・・大天体ショーは終わりだ。


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帰り道、なかなか来ないバスに乗り、汽車が遅れるというのでトラックの荷台に鈴なりに人が乗って、砂ぼこりの中をマブーブナガールに帰りついた。

スィートラマに言われるまま彼の家に行き、チャイをごちそうになる。
ここには2家族10人が住んでいる。

なかなかきれいな家で、買ったばかりと見られる扇風機が、ビニール袋をかぶせて置いある。

おそらくこの家で最も高価で、最も近代的な電化製品だ。

今夜はここに泊まって行けと勧められたが、インド人に見つめられるときを長く過ごしたせいか、かなり気疲れしていたので、丁重に断って駅に行った。

一人気楽に、駅で寝よう・・・

マブーブナガールの駅で遅い夕食を食べ、蚊のいっぱいいる駅の待合室で寝た。

駅員は親切にしてくれた。こういう親切が身にしみて嬉しい・・・


この頃、すでに私はインドという国が好きになっていた。


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当時はカメラを持っていなかったのです。(盗まれた)
これはネットにあるコロナの画像
本当にこんな感じでした

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第2話  入国拒否 第17話  カルカッタにて 第32話  イランの印象(1)
第3話  強盗だー! 第18話  ヒマラヤの旅(1) 第33話  イランの印象(2)
第4話  TOMODATI! 第19話  ヒマラヤの旅(2) 第34話  イランの印象(3)
第5話  聖地の大晦日 第20話  ヒマラヤの旅(3) 第35話  中東にはホモが多い?
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第8話  ヒッピーの聖地(海岸の小屋) 第23話  ポカラの公立病院 第38話 国民総商売人
第9話  ヒッピーの聖地(パーティー) 第24話  旅先で発病した人たち 第39話 銃撃事件
第10話  ヒッピーの聖地(LSD)   第25話  酷暑 第40話 旅の終わり
第11話  ヒッピーの聖地(朝の光と波の音は・・) 第26話  日本は「ベスト・カントリー」だ! 最終話 帰路・あとがき
第12話  インド人は親切だ? 第27話  目には目を?
第13話  田舎を行く列車の旅 第28話  沙漠の国
第14話  変わり始めた片田舎の町 第29話  「異邦人」の町
第15話  皆既日食を見た! 第30話  沙漠に沈む夕陽