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■ 第28話  沙漠の国


パキスタン、ラホールからクエッタへ向かう混雑した列車の中で、乗客の若いフランス人と地元パキスタン人が口論になり、フランス人がパキスタン人の足元に唾を吐き捨てた。
パキスタン人がフランス人の胸ぐらをつかんだと思った瞬間、彼は一歩後退して座席の角に両手をかけ、飛び上がってパキスタン人目掛けて両足キック!

その後二人は、混雑した車内で猛然と喧嘩をはじめてしまった。
本気で殴り合い、蹴り合い、まさにケンカ、暴力の応酬だ。(@_@)


乗客たちは誰も喧嘩を止めようとしない。
全員がパキスタン人の応援をしている。


そりゃー、無理もない。あのフランス人が、周りのパキスタン人に対してまるで汚らわしいものでも見るかのような態度を取ってきたことは私も見ていたし、当然周囲の反感を買っていたはずだ。

彼は自分でそのことに気づいていなかったのかな?

そんな中で、あろうことか自分から相手に暴力をふるうなんて、自殺行為に等しいんじゃないか?



喧嘩はパキスタン人の方が強かった。
力も強いし、周囲は全員味方だ。

やがてフランス人のほうは守勢一方になり、逃げようとしたが車内が混んでいて逃げられない。一方的にやられっぱなし。

可哀想な状況になってきた頃になって、やっと周囲の乗客たちがパキスタン人の方を取り押さえだし、喧嘩はおさまった。


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パキスタン人の方としては、相手をさんざん痛めつけ、十分に報復して名誉を回復したという感じだったが、
あのフランス人の若者は、ボコボコにされて顔がはれ上がり、よろめきながら自分の席に戻ったかと思うと、シクシク泣き出した。

周囲の反感を買い、自ら暴力をふるい逆襲されて負け、果ては大勢の前で泣いている。

これ以上ないくらい惨めだ。


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喧嘩はおさまったものの車内は気まずい空気が漂っていた。
私の向かいの席の客が私に尋ねた。

「おまえはあの男(フランス人)の友達か?」

車内にいる外国人は、私とフランス人の二人だけだ。席も近いことから仲間だと思われても不思議ではない。

「いいや、違う。」(いっしょにされてたまるか!)

「そうか。」

真剣な表情が安堵の表情にかわったと思うと、

「彼はフール(馬鹿)だ。」 と吐き捨てるように言った。

(そうだろうな・・・俺もそう思う・・・)

「日本人は礼儀正しい。テクノロジーも素晴らしいが、文化も素晴らしい。日本はいい国だ。」

・・・あのフランス人が憎まれ役だった反動で、もう一人の外国人である私の人気が高まった。

周囲の乗客からいろんな質問をされ、タバコをすすめられる。

アフガンスタイルの太いターバンを巻き、日焼けした一見怖そうなおっさんも、英語が全く話せないから会話は出来ないものの、目があうと首をちょっと横に傾けてニコッと微笑む。その動作は「可愛い」とさえ思える。


それにしても、パキスタン人は本当に日本を高く評価しているようだ。
彼らが想像しているのと、現実の日本とはかなりギャップがあるような気がするけど(^^ゞ


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午後6時半、列車はどこかの駅で、機関車の交換でもしているのか長い間停車していた。
列車が揺れないこの隙に乗客たちはイスラムのお祈りをはじめた。

と、いっても車内は混んでいる。

3人がけの長い座席を、一人分のお祈り用スペースに使うのだ。
席に座っている3人は立ち上がり、順番に一人ずつ席に横向きに座り、窓の方を向いて何事かブツブツと唱えたり、額を床に伏したりと数分間続け、次の人に交替する。

ちょうどうまい具合に窓は西、つまりメッカの方角を向いていた。

私は当然お祈りはしないけれど、立ち上がって席を譲るのであった。



車窓から見える沙漠地帯の集落
今でもラクダが活躍しているようだ




混雑した車内で一夜を過ごし、目を覚ましたら朝6時だ。

ふと窓の外に目をやると・・・ ウワーッ!! なんじゃこりゃ!

見たこともない光景!

広大な沙漠の中を走っている。これまでの風景とは一変した。




ゆうべは列車の中に砂埃が頻繁に入ってきて、咳ばかりしていたが、そういうわけか。
ついにモンスーン地帯から沙漠地帯に入ったのだ。




線路に平行して100メートルほど向こうに道路があり、電話線が通っているほかは、なあーんにも無い。

地平線まで360度すべて平坦な黄土色一色の世界。

時々ラクダの隊商が通ったり、全身派手に飾りつけたパキスタントラックが、わざわざ道路からはずれたところを砂埃をもうもうと上げながら疾走したりするのが見える。

なるほど、これだけ広いと人間がつくった道路の上なんかシャラくせー! 俺は好き勝手に走らせてもらうぜ!  という気分になるのも良く分かる。
同感だ。


地球上に「沙漠」というものがあるのは知識として知っていたが、いざ実際に見たときの衝撃は大きかった。

本当にこんな世界があるんだ・・・


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やがて前方に荒涼たる山脈が見え始め、列車はその中へ入ってゆく。
列車の前と後ろに機関車をつけて、ゆっくりと登りになる。

泥を固めた黄土色の家や、遊牧民のテント、羊の群れを追う人々などが時々現れる。
あたりは本当に荒涼とした、一木一草もない乾ききった荒々しい山々で、その異様さは凄い。



周囲がステップ状の草原にかわったと思ったら、午後2時頃、パキスタン南西部バルチスタン地方の中心都市都市クエッタに到着した。

日に焼けて、ダブダブのシャツを着て、ヒゲを生やし太いターバンを巻いたアフガンスタイルの人々がこの町の主人公のようだ。

インドやラホールの人々とは雰囲気が違っていた。


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クエッタの街外れにて


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第11話  ヒッピーの聖地(朝の光と波の音は・・) 第26話  日本は「ベスト・カントリー」だ! 最終話 帰路・あとがき
第12話  インド人は親切だ? 第27話  目には目を?
第13話  田舎を行く列車の旅 第28話  沙漠の国
第14話  変わり始めた片田舎の町 第29話  「異邦人」の町
第15話  皆既日食を見た! 第30話  沙漠に沈む夕陽