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■ 第30話  沙漠に沈む夕陽


イラン領事館が開いたので行ってみた。ビザは要らないとのこと。

なんだ、インフォメーションセンターの言っていたことはウソじゃないか。
では、いざイランへ行こう!



パキスタン西部からイランにかけて、ルート沙漠といわれる沙漠地帯が広がっている。
この沙漠を、イラン国境の町タフタンまでバスで移動するのだ。

距離は6〜700kmもあるだろうか、地図で見ても随分と遠い。熱さと乾燥でしんどい旅になりそうだ。


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クエッタ最後の晩、ホテルの食堂でいつものようにナンと豆のカレーの夕食を食べていた。
食事には生のタマネギをズドンと輪切りにしたものが添えられてくる。
辛いカレーの合間にこのタマネギを生でかじりつく。

向かいの席にいた30歳くらいのオランダ人は、聞けばもう6年間も一人旅を続けているそうだ。

時々、先進国でアルバイトしてはお金を溜め込み、そしてまた旅に出ていく。
そうして世界中を歩き回っている。

「私はもう家には帰らない。一生、旅を続けていく。」

そういう生き方もあるのか・・・それもいいかもしれないなあ・・
そんなことを考えていたら、横の席のパキスタン人の泊り客が言った。


「あなたの生き方は間違っている。人は一人で生きているのではない。あなたはいつか故郷に帰り、家族のために、故郷のために何かをするべきだ。」

これにはオランダ人は反論した。

「人は基本的に一人であり、完全に自由な存在だ。本当に生きたいように生きるべきなのだ。私は自由でありたい。」

「いや、そうではない・・・」

パキスタン人とオランダ人はホテルの食堂で「人生について」議論をはじめた。
結構激論だ。

両者の考え方は真っ向から対立しているようだったが、英語についていけなくて途中から何を言っているのか分からなくなってしまった。

「日本人はどう思う?」

議論の矛先がこっちに向いてきた。


「あわわわ・・・」

そのとき何を言ったのか、もう覚えていない。
支離滅裂で中途半端で、私がそういうことを深く考えたことがないということを思い知らされた。


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「あんたの宗教は何だ?」

パキスタン人が私に聞く。



「無宗教だ。」← この答えは言うべきでない。
「私は仏教徒だ。」← こう答えることにしていた。

このパキスタン人の仏教に対する考え方は意外だった。

彼はいう。
「仏教は素晴らしい。しかし仏教は宗教ではない。仏教は『truth(真実)』だ。」

「仏教が「真実」だと? そう思うならなぜ仏教を信じないで、イスラム教を信じるのか?」

彼は長々と説明してくれたが残念ながら私の貧弱な英語力では理解不能だった。



オランダ人に仏教の事を聞かれたが、私自身さっぱり分からない。

シドロモドロ・・・

「こいつ、本当に仏教徒なのか?」

オランダ人はそう思ったかもしれない。オランダ人にもパキスタン人にも見透かされていたかも・・(^^ゞ



宗教や人生について・・・これまで深く考えたことなどなかった。

外国の人って、結構まじめに考えているんだなあ。



クエッタの土木作業員たち

散歩の途中でカメラを向けると、男たちは陽気にポーズを決め、
女性たちは一斉に駆け出して逃げた (左端に一部見える)

イスラム圏ではカメラを向けるのに注意が必要だ




バスが出る日の朝、ホテルのおやじは、ぶつくさとうるさいおやじだったがちゃんと4時半に起こしてくれた。

あのオランダ人といっしょにバス乗り場に行く。

夜明け前の暗闇の中、街のあちこちのモスクから朝の祈りを呼びかけるコーランの放送が響き渡る。

「アッラーーーー、アークバル!」

「アッラーーーー、アークバル!」

モスクがたくさんあるので、街中が騒々しい。



バス乗り場では、昨日教えてもらった場所にちゃんとバスは停まっているのに、Companyが違うとかで乗せてくれなかった。

仕方なくぶらぶら歩いていたら、全然別の方向からバスがやってきて、それがそれだった。

出発前にチャイを飲み、小僧に10ルピー渡したら、おつりはついに帰ってこなかった。
タフタンまでもうほとんど現地通過がないので、バスに乗っていたスペイン人女性2人組に1ドルをチェンジしてもらう。



私の席の足の部分には、一斗缶やスイカが置かれており、やっぱり狭かった。

後ろの席にはオバケみたいなチャドル姿のモスリム女性3人。

運転席の横には、その会社のアニキたちが勝手に座り込んで、運転手と話をしながらゆく。

インド、ネパール、パキスタンともに、バスの停まる場所などは運転手の好き勝手で、まだまだ群雄割拠のなごりを感じさせる。確かに、沙漠の真ん中で運転手に逆らったら大変だ。

広大な沙漠地帯を、大きなハンドルを握って好き勝手に疾走するバスの運転手は花形職業なのだろう。私もパキスタンのバス運転手をやりたい!


沙漠横断バスの旅、スタート! 到着予定は深夜だ。



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朝のうちは涼しくて快適だったが、すぐに猛暑、いや酷暑になった。

まわりの風景は真に絶景だ。

一木一草もない荒々しい光景。凄みのある山々。広大な地平線。
時折出会う遊牧民たち。ラクダ。泥を固めた家々・・・





バスは時々停車し、人々はぞろぞろ降りて、小さな建物跡などの壁に向って祈りをささげていた。

予想どおり猛烈な熱さと砂埃、極度の乾燥でシンドい旅だ。
ホテルから持参した水はすぐになくなり、喉が渇くこと渇くこと・・




そして夕刻、行く手の地平線に巨大な夕陽が沈んでいく・・・

なぜかこのとき、自然に涙があふれてきた。

子供のとき以来一度も泣いたことなどない私が、自分の意思とは無関係に勝手に泣いている。とても感傷的になっていたのだろう。




もう5ヶ月も旅を続けている。体重も10kg以上痩せ、体の贅肉が取れただけでなく、心の贅肉も取れていた。

長いこと一人で慣れない外国にいて心が揉まれに揉まれ、毛皮を剥ぎ取られた動物かなにかのように、皮膚の露出した超敏感で感じやすい状態になっていたのかもしれない。

2週間や1ヶ月程度の旅ではこうはならなかったと思う。5ヶ月過ぎて、体力的にも貯金を使い果たしている。



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熱さと、バスの狭さと乾燥で非常に疲れていたけれど、果てしなく広がる地平線や、巨大な夕陽を目の当たりにして、本当に「地球」を実感していた。

この非日常的な世界が、お話やニュースや夢の世界でなく、本当の世界なのだ。

ユーラシア大陸はでかいなぁ!!



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クエッタ郊外の砂漠で見かけた遊牧民
石を放りながらヤギを誘導していた


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目    次
第1話  旅の序章 第16話  屋根の上のシタール弾き 第31話  アラーよ、許したまえ
第2話  入国拒否 第17話  カルカッタにて 第32話  イランの印象(1)
第3話  強盗だー! 第18話  ヒマラヤの旅(1) 第33話  イランの印象(2)
第4話  TOMODATI! 第19話  ヒマラヤの旅(2) 第34話  イランの印象(3)
第5話  聖地の大晦日 第20話  ヒマラヤの旅(3) 第35話  中東にはホモが多い?
第6話  泥棒もひとつの「職業」! 第21話  ヒマラヤの旅(4) 第36話 「小アジア」の風景
第7話  船旅 第22話  ついに発病か? 第37話 イスタンブール到着
第8話  ヒッピーの聖地(海岸の小屋) 第23話  ポカラの公立病院 第38話 国民総商売人
第9話  ヒッピーの聖地(パーティー) 第24話  旅先で発病した人たち 第39話 銃撃事件
第10話  ヒッピーの聖地(LSD)   第25話  酷暑 第40話 旅の終わり
第11話  ヒッピーの聖地(朝の光と波の音は・・) 第26話  日本は「ベスト・カントリー」だ! 最終話 帰路・あとがき
第12話  インド人は親切だ? 第27話  目には目を?
第13話  田舎を行く列車の旅 第28話  沙漠の国
第14話  変わり始めた片田舎の町 第29話  「異邦人」の町
第15話  皆既日食を見た! 第30話  沙漠に沈む夕陽